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Acrobat Connectが切り開くビジネスシーンの近未来――ケビン・M・リンチ氏に聞く

Printable Version 2006年11月14日

アドビ システムズ(株)は、PDF作成・管理ソフトの最新版『Adobe Acrobat 8 Professional』および『同 Standard』の国内販売を今月17日に開始する。それに関連するプロモーションのために来日したAcrobatファミリーの責任者である、米アドビ システムズ社のナレッジワーカー事業部副社長のケヴィン・M・リンチ(Kevin M.Lynch)氏にインタビューする機会を得た。『Adobe Acrobat Connect Professional』が新たに追加された新“Acrobat”ファミリー、そしてPDF+Flash+HTMLの次世代プラットフォームであるApollo(アポロ)について話を聞いた。

ケヴィン・M・リンチ氏
米アドビ システムズ社のナレッジワーカー事業部副社長のケヴィン・M・リンチ氏

アドビでは同じビルの4Fと5Fでも
Acrobat Connectで会議してる!?

[――] 今回、『Adobe Reader』の機能が大幅に変更されましたが、その最大の理由は何でしょうか? 他社から“PDFリーダー”が登場してきたことも機能追加・変更の要因になりましたか?

[リンチ氏] Adobe Readerの機能について、利用者からのフィードバックは数多くあります。そこから、ビジネスを加速化していくには単に文書を作成して転送するだけでは足りず、文書を保護したり、あるいは情報を集めてきて関係者同士がコラボレートできることが重要だと知りました。このように我々は競合他社ではなく、あくまでユーザーのニーズに応えることに目を向けています。
アドビのビジョンとしても、顧客が自分たちの目的を達成するために、さまざまなコミュニケーションやコラボレーションができるようにお手伝いすることが重視されています。変わりゆくビジネス環境に確実に対応することが今回の進化につながったのです。

[――] Acrobat Connectのような共同作業環境は、国土の広い米国であればこそ必要だと思います。一方、日本では離れていると言ってもせいぜい東京と大阪間程度ですが、この違いはAcrobat Connectの必要性を損ねませんか?

[リンチ氏] 遠隔地同士のコミュニケーションのニーズは、多かれ少なかれ日本でも同じ状況になっていくと思います。経済がグローバル化している今では、全世界を相手にビジネスをしなければなりません。例えば、日本の企業が中国のサプライヤーと話をしなければならないとしたら、米国内を移動する感覚と大体同じぐらいの距離になるのではないでしょうか? ビジネスのスピードというものを考えた時には、移動時間がわずか半日だとしても“かかり過ぎ”という判断になるかもしれません。
アドビの社内ではAcorbat Connectがあまりに快適に使えるので、サンフランシスコとサンノゼを繋いでミーティングするのは当然としても、同じビルの4階と5階に別れているだけなのに、Acrobat Connectを使って会議を行なうこともあるほどです。

[――] そうした“リアルタイム・コミュニケーション”というイノベーションをAcrobat Connectがもたらしてくれるとして、今度は逆にリアルな時差がコミュニケーションの直接的な弊害にはなりませんか?

[リンチ氏] コミュニケーションとコラボレーションでは、地理的な問題と時間の問題を超えなければなりません。今、私の目が真っ赤に充血しているのがお分かりになると思いますが、やはり時差という物理的な制約があるのは仕方のないことだと思います。対面して直接話ができればいいけれど、それができない場合には時間の問題を超越してでもやり取りする必要があります。もちろん、そこにはドキュメントを使うなどして、非同期的にやれることもあると思います。
また、時差のないような近い場所であっても、直接会ってミーティングを重ねるのが難しいという事態もあるのではないでしょうか? 3回行なうミーティングのうち、2回はAcrobat Connectで画面を共有しながらより豊かなミーティングを行ない、節約できた時間で別のクライアントとのミーティングを持つこともできるでしょう。Acrobat Connectはそうした時間の節約にも一役買うと思います。
こうしたコミュニケーション手段は自然な進化ではないかと思います。これまでの通信をベースにした電子メールなどのコミュニケーション、電話による音声だけのコミュニケーションから、ビデオで仮想的に対面してアプリケーションの画面を共有できるリッチなコミュニケーションに進化するわけです。

[――] モバイルへの対応も必要になると思いますが、携帯電話への対応はいかがですか?

[リンチ氏] Acrobat Connectは携帯電話もサポートしています。現在は音声のみのサービスですが、電話番号をあらかじめ登録すれば相手を呼び出して音声で会議に参加させたり、携帯電話機の音量調節もできます。将来的には携帯電話機の液晶ディスプレーに今会話している相手の顔が見えるようになるでしょう。すぐにそれが実現できなくても、リスト中の名前がハイライト表示されるようにはしたいですね。Flash Liteは多くの携帯電話機に搭載されており、NTTドコモを始めとしたキャリアー各社との一定の関係は構築できています。今後、携帯電話に機能を追加する準備はできています。“Flash is everywhere.(Flashはどこにもある)”なのです。

[――] Acrobat Connectのユーザー数はどのぐらいになるとお考えですか?

[リンチ氏] 最終的には1人に1つです。携帯電話やメールアドレスのようにひとりずつ、老若男女すべてが自分のミーティングルームを持つ時代が来ると思います。それが現時点のターゲットではありませんが、将来的にはそうなっていくと考えています。現在、多くのお客様はビジネスで使うことを前提に試用いただいていますが、実際にはその多くが、子どもがおじいちゃんやおばあちゃんとテレビ会議をするのにも使っていて、好評をいただいています。

Apolloアプリケーションの登場で
開発者のビジネスチャンスが広がる

[――] AcrobatやFlashのゴールするところは、やはりApolloということなのでしょうか?

[リンチ氏] そうです。ApolloはPDFやFlash、HTMLのそれぞれいいところを盛り込んで、そこに新しい機能を加えたものです。デスクトップでもウェブでも、自分が望むとおりにコンテンツに関わり合えるランタイム環境を実現します。それはアプリケーションではなく開発するための環境であり、Apolloの上で表現されるコンテンツがあくまでも中心となるものなのです。
アドビではApolloの“アーリーデベロッパーリリース”(プレリリース)を準備しています。今年の年末に間に合うように頑張っているところです。2007年は非常に大きな変化と素晴らしい機会がもたらせる年になるはずです。

[――] Apolloの登場で、さまざまな立場の人がコンテンツを作ることになると思うのですが、クリエイター向けと一般ユーザー向けの制作環境はそれぞれ用意されるのでしょうか?

[リンチ氏] エンゲージメント・プラットフォームの上にアプリケーションやサービスなどのコンテンツがあって、それらの開発に携わるのはクリエイティブ・デザイナープログラマーの2タイプがあり、それぞれに異なるニーズがあります。Apollo向けコンテンツの開発には『Adobe Flash Professional』などのデザイナー向けオーサリングツールと、『Adobe Flex Builder』というプログラマーが好むXMLやJavaScriptが容易に扱える環境があります。いずれもFlashのエレメントが扱えるものです。開発環境はさまざまで、Flex Builderのように現状ではWindows用のみのものもありますが、今後はMacユーザー向けにも提供していきますし、より多くの環境にも対応できるよう準備を進めています(※1)。さらにAcrobat Connectというナレッジワーカー向けのアプリもあるわけです。これらがそれぞれの開発者のニーズに応えてくれると思います。
Apolloアプリケーションの開発はそれほど大変なものではないと思います。先日、私は朝早く起きてサッカーの試合に出かける前までのわずかな時間で、ひとつのアプリを書きました。“Yahoo! Maps”と連携していて、離れた場所にいる相手に地図を見せながら、自分の居場所をナビゲートしてズームインして見せられるものです。

※1 今月6日に同社は、『Adobe Flex Builder 2 Macintosh版』および『Flash Player 9 Linux版』のプレリリース版を提供開始している。

[――] Apolloは企業のサービスも変えていくと思うのですが、すでに企業からそうした引き合いがきていますか?

[リンチ氏] はい。すでに多くの企業が我々のやっている事に関心を寄せてもらっています。我々のビジネスを変えようとしている姿勢がオフィスに変化をもたらすと思います。

Adobe Digital Editionsで
アドビの電子ブック“第2ラウンド”が始まる

『Adobe Digital Editions』の画面
“Adobe MAX 2006”で披露された『Adobe Digital Editions』の画面

[――] 10月24日に『Adobe Digital Editions』というものがパブリックβとして提供開始されましたが、これもApolloと関係があるのでしょうか?

[リンチ氏] いいえ、Adobe Digital EditionsはApolloとは別のもので、“eBook”、つまり電子書籍向けのRIA(リッチインターネットアプリケーション)です。電子書籍のデジタルフォームをどうやって配信するかというもので、我々が7年前に試みたものを継承しています。当時は時期尚早でうまくいきませんでしたが、今回はいわば“Take 2”。第2ラウンドというわけです。

[――] リターンマッチですね! 今回はいけると。

[リンチ氏] 前回は「ちょっと先走りしちゃった」ということです。今回は、ユーザーが“コンテンツを電子的に入手する”ことに抵抗がなくなっていることがひとつの要素になりました。そして、もうひとつがeBookを表示するデバイスがよくなったということ。この2点が相まって、現在は最適な機会が生まれていると思います。

[――] 電子書籍はパソコンだけではだめで、携帯電話のようにまずデバイスの普及がないとうまくいかないビジネスだということがある程度実証されていると思います。すでにデバイスメーカーとの交流は持たれていますか?

[リンチ氏] まさに今その話をしているところで、ここにきて時機を得たと思います。コンテンツのアクセス方法とそれを実現するデバイスがうまく重なって、革新していくと思います。これは2007年に訪れる変化のひとつになります。



運命的にアドビへと導かれたリンチ氏

[――] リンチさんはAcrobat Connectの元となったアプリケーション(Breeze)を米Presedia社で開発し、その後はマクロメディアからアドビへと“時代の大きな変化”に遭遇し、身をもって経験されてきたわけです。最初のアプリケーションを開発したとき、これほどにデジタル社会に大きな影響をもたらすと予想していましたか?

[リンチ氏] (“時代の大きな変化”“デジタル社会に大きな影響をもたらす”とは)まったくその通りだと思います。新しいアイデアが花開いて成功するときは、さまざまな要素がうまく重なりあって生まれ出るのだ思います。Acrobat Connectの場合は、Flashがあって、ウェブやインターネットに十分な速度が与えられる環境ができ、そこに私自身がリスクを負ってやってみようと考えていたという、そういった運命が重なってできたものだと思います。本当に不思議な巡り合わせです。
ビジネスの変化の速度はますます早くなっています。会社にとっても個人にとっても課題となっています。しかし、同時に課題は機会でもあります。いろんな要素があって、起きていくのではないかと思います。アドビはそういう変化に参加していきたい。アドビのミッションである、“人と情報の関わり方に革新をもたらすこと”で、お客様が夢に描いていることの実現をお手伝いしていきたいと考えています。

[――] 近未来の社会問題を描いたある映画の中で、主人公が情報を検索する際に空中に浮かんだバーチャル・ディスプレーに表示されたファイルを掴んで作業するというシーンがあります。Acrobat ConnectにしてもApolloにしても、そうした非現実的と思われた情報処理の姿が、グンと現実に近づいたように思います。アドビは今後、そうした“近未来”を実現していくのでしょうか?

[リンチ氏] 私もその映画を見ましたから、よくわかります(笑)。あのシーンには感動しました。どこに感動したかというと、あまりにも自然だったからですね。主人公が情報を取得し、共有し、最終的に目的を果たしていたからです。我々の提案している、“目的を果たす”という点では一致していたと思います。もっとも、あれが適切な方法だとは言えないと思いますが。
Acrobat Connectは始まりにすぎません。Flashによってコンテンツがアプリケーションそのものとなり、それが画像だったり、ビデオやスライドショーになるかもしれません。あの映画もそうですが、重要なのはアプリケーションではなくコンテンツなのです。つまり情報とそのナレッジ(知識・内容)ということなんです。

(千葉英寿)





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