【特別対談】二大企業の重鎮が語る、アップルへの提言――第2回「ユーザーを幸せにするMac互換機とは」
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MacPeople 2006年4月号 2006年04月11日
前回の対談では、西岡氏、古川氏のMacとの出会いや、米アップルコンピュータ社の米インテル社製CPU採用に対する見解が語られた。2回目となる今回は、Intel Macの話から発展して、Macの互換機戦略について深い議論が交わされた。
*この対談はMac miniとBoot Campの発表前、2月上旬に収録されたものです。
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左・インテル(株)元会長・西岡郁夫氏、右・マイクロソフト(株)元会長・古川 享氏 撮影:(有)パシャ 篠原孝志 協力:九段会館 |
インテル移行でのアップルの真の狙い
――おふたりともCPUは何でも構わないということですが、それではなぜ、アップルはインテルCPUへの移行をあそこまで高らかにうたったんでしょう。
【古川】 インテルCPUへの移行には、もうひとつ別の狙いがあるような気がしてなりませんね。それは、しつこく旧Mac OSを使い続けているユーザーへの最後通告。Intel Macは、これまでMac OS Xを使ってきた人が移行できるようなパスは用意しているけれど、Mac OS 9を使ってきた人へのパスは用意していない。だから、早くMac OS Xにいらっしゃいと……。
【西岡】 ジョブズの基調講演といえば、ポール・オッテリーニ(インテル社長兼CEO)が、プロセッサー工場の製造工程で着るユニホームを身に付けて登場しましたよね。
私はあの演出には深い意味があると思うんですよ。つまり、「インテルが提供するのは、マイクロプロセッサーだけです。アップルがうたう“ライフスタイル”の部分には一切でしゃばらず、裏方に徹します。“Intel Inside”も考えていませんから、安心してください」といったメッセージが含まれているのではないでしょうか。
――なるほど。ところで、西岡さんも、アップルによるインテルCPU移行に裏の意味があるとお考えですか?
【西岡】 ええ、私は今回の発表だけではまだ大したことがないと思っています。今、アップルは重要な岐路に立っている。これまで通りでいくのか、それともソフト開発に専念するメーカーに転身して、Mac本体の製造を他社にもやらせるのかという選択です。
私としては後者に期待していますね。もちろん、Macはデザインで定評があるので、本体デザインのディレクションとかはアップル側が担当する必要があるかもしれない。また、多くのアップルファンが愛着を抱く、アップルのロゴマークも必須でしょう。
でも、それらはライセンス形態次第で何とでもなるものであって、大事なのはWindows+インテル陣営のように、より多くの会社がそれぞれの強みを活かしたMacのハードを開発できるように持っていくか、ということ。
10数年前にアップルが米マイクロソフト社のようにソフトの開発に専念して、ソフトだけで競争していたら今のビル・ゲイツの成功はなかったでしょう。ハードの商売を捨てる勇気がなかったために、ハードの選択肢の多い“Wintel”に負けた――その歴史をどう学ぶかです。
――つまり、Mac互換機ですね。アップルは一時期、Mac互換機戦略*1を進めていましたよね。
【古川】 それについてはちょっと悲しい思い出があって、私はちょうどその少し前に日本のアップルコンピュータ(株)の社長というポストをオファーされていたんですよ。
そこで当時のアップル本社の人に、「ソニー(株)と手を組んで、アップルからはクリーム色のMacを出して、ソニーからはシルバーのMac互換機を出す」という計画を提案したところ、向こうからは「そうした交渉は不要だから、Macの販売だけに専念してほしい」と言われたので、社長就任の申し出を断ったんです。
*1 Mac互換機戦略
アップル社は1995年〜1997年末までMac互換機の製造を容認。米国や日本のメーカーが相次いで互換機を発売したが、価格面や最新CPU採用でアップルと競合することが多く、スティーブ・ジョブズによって中止された。
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(林 信行、編集部)
今の時代、Mac互換機は是か非か
――もしかしたら、“VAIO Mac”が登場していたのかもしれないんですね。そんな古川さんから見て、インテル化を機にMac互換機戦略を再開させるという西岡さんのアイデアはいかがでしょう?
【古川】 そうですね。例えばMITメディアラボの100ドルPC*1ができたとき、アップルがMac OSを提供しようかと提案し、断られたという話があるじゃないですか。
もし、あそこでMac OSのライセンスが決まって、非力な100ドルPCと一緒にMac OSが広まったからといって、果たしてそれがMacにとってよかったのかと言うと疑問ですね。
もっとも、互換機事業がうまくいくタイミングはあった。ソニーのVAIOが注目を浴びていた頃に、「VAIOシリーズを全部Macのアーキテクチャーで揃えました」と打ち出したらインパクトがあったと思いますが、今はそのような互換機は魅力に欠ける気がします。
例えば、安売りパソコンメーカーが自社製PCについて“Mac OS対応”とうたったところで、本当にその製品に魅力があるんでしょうか。Macのデジタルライフスタイルは、ハードの外観とか、そういったものすべてが一体になって初めて実現しているのでは、と思います。
【西岡】 どちらが本当にMacユーザーを幸せにできるんでしょうかね。私はこれまでの歴史は、ハードの選択肢が多いほうがユーザーは幸せだと教えていると思うんですよ。
例えばノート型にしても、昔、アップルが作った『Macintosh Portable』*2は非常に大きくて重い拷問用のマシンみたいでしたが、あれもアップル1社でハードを作っていたからああいうことになった。
これに対してWindows市場のように数多くのメーカーが切磋琢磨してハードを出せば、薄くて軽いノートPCの得意なメーカーや、重いけどフルスペックのノートPCが得意なメーカーなどが揃って、ユーザーは自分に合ったノートPCを選べるわけです。このほうがユーザーは幸せだと思うのですが……。
【古川】 選択肢が増えたがために、Macのブランドが保てなくなる、ということもあるかもしれない。つまり、“私のMac”という定義が拡散してしまうんじゃないかと心配になるんです。
日本のアップル元社長の原田さん(原田永幸氏)の言葉を借りると、「Windowsの世界に“My Windows”という言葉はないけれど、Macの世界では“My Mac”(私のMac)という言葉が頻繁に使われていて、この距離感が重要なんだ」と。
昔の互換機政策は、マーケットシェアを気にして始められたものですが、シェアについていえば、今のMacだってメルセデスベンツやBMWと同じ程度のシェアを持っていて、これらの車に負けない高い満足度をユーザーに与えている。
だけど、以前の互換機戦略では完全なブランドコントロールができないままに互換機が作られ、Macと呼ぶのには忍びないようなものまで出てきてしまった。
【西岡】 そのことは学んだと思いますよ。“互換機”というと、かつてのPC-98互換機のイメージ、つまり本家に対抗して“同じソフトが使えます”とよく似たマシンを生産・販売するダサいイメージだけど、僕のイメージは、アップル単体では絶対できないような補完的な役割を持つパートナーを複数持つというイメージ。
例えば、紙のように徹底的に薄くて、柔らかくて折りたためるノートPCとか、ファッションの中に溶け込むパソコン、それも奇をてらうデザインじゃなくてライフスタイルにジャストフィットしたパソコン――といった夢を追うのに、結局、多くのPCメーカーが切磋琢磨しているWintel系がいつも先を行くことになる。
結果として、ハード的にはいつもMacユーザーが寂しい思いをしなければならない。あのMacとしてのデザインはアップルが管理すればいいでしょう。必ず同じリンゴのロゴマークが付く、という感じで。
*1 100ドルPC
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで開発された100ドルのラップトップパソコン。発展途上国の子供にパソコン教育を施すために開発された。NPOの“One Laptop Per Child”(OLPC)が取り扱い、一般向けには販売されない。
*2 Macintosh Portable
アップルが1989年に発表した可搬型パソコン。輝度の高いアクティブ・マトリクス液晶を採用したにもかかわらず、最大12時間のバッテリー駆動時間を確保。その代償として重さは7.2キロに、価格は100万円近くになった。
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(林 信行、編集部)
アップル体験 vs 製品バリエーション
――今までの話をまとめると、古川さんは、アップル1社でハードからOS、アプリケーションまで作ってこそアップル製品の満足度があるという考え、これに対して西岡さんはハードの製造は他社に任せるべき、というものですね。
【古川】 Macだけに限らず、例えばiPodにしても、iTunesと“iTunes Music Store”、iPodといった連携をアップルが1社で手掛けたからこそ、あそこまでシームレスなものが出来上がった。
【西岡】 確かにiPodについてはアップルがすべてやることに意味があるように思えます。古川さんが言うように、iPodは単なるモバイルオーディオ機器以上の、もっと深い、“on the way”だけではない車や家、あらゆるライフスタイルへの提案ですよね。それは認めます。その点は議論しませんが、パソコンは今後どうなるのですか?
パソコンに対する発想の変換(パラダイムシフト)を、アップルはこのところ提案できていないように思います。iPodが売れに売れているから、パソコンの革命は忘れているのでしょうか。
パソコンはソフトが重要だけど、ライフスタイルを変えるためにはハードも重要な要素のはず。そのハードの開発体制は決して強力じゃない。Macについては有象無象の互換機メーカーではなく、アップルと共にライフスタイルを提案できる複数のメーカーが開発に加わるということに、大きな意味があると思えてなりません。
【古川】 私には今日あるようなパソコンのメーカーや流通業者が、Macを扱っている姿というのはなかなか想像できないんですよ。あるとしたらタグホイヤーとかルイ・ヴィトンとか、ベネトン、B&Oといったライフスタイルを提案している企業が自社ブランドのMacを扱うといったかたちでしょうか。
今、iPodもMacも再び白と黒(銀)の2色に戻ってしまってバリエーションが少ないから、それを補う意味も込めて、こうしたブランドのMacが出てくるのはアリかも。
【西岡】 そう、そういう発想ですね。ルイ・ヴィトン、アウディなんか面白いんじゃないですか? 確かに、いまWintel系のPCを生産・販売している互換機メーカーがいまさら加わっても、よく似たマシンをゾロゾロ出すだけでしょうから。この点は古川さんに賛成ですね。
――西岡さんは互換機戦略で、製品バリエーションが豊かになるという考えのようですね。前回の互換機戦略ではそれほどバリエーションが出ず結局、お互いのシェアを食い合ってしまいました。
【西岡】 昔、アップルがパイオニア(株)などに互換機の開発を許可した頃とは状況は違っているんですね。ただ、前にもっと徹底的に互換機戦略を進めていたら今のビル・ゲイツはいなかったかもしれない。
当時のやり方は中途半端だった。互換機を許しても、本家のメインボードの使用を強制*1したのでは、ライセンシーが超小型化、薄型軽量化などの特徴を発揮できませんからね。だから、魅力あるバリエーションが生まれずに失敗に終わったんです。
【古川】 日本の家電メーカーがMacを扱うシナリオとして、もしかしたらあるかなと思うのは家電版Mac mini。アップルはそのうち、絶対にMac miniを別のやり方で売り出すと思うんですが、それに合わせて家電メーカーの側から、Mac miniに似合うプラズマテレビに合わせて、「一緒に売らせてください」とか持ちかけられたら、出る可能性はありますね。
*1 メインボードの使用
アップルのMac互換機政策は、ロジックボードとMac OSをライセンスするというビジネスモデルで成り立っていた。そこから米モトローラ社経由の2次ライセンスモデルに移行し、最終的には“CHRP”という標準仕様のパソコンなら、どれでもMac OSが動くようにする予定だった。
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(林 信行、編集部)
重要なのは技術革新のプラットフォーム
【古川】 それにしても、そこまでしてMac互換機って必要になりますかね。
【西岡】 そもそも“互換機”という言葉がよくない。昔、アップルと米IBM社、米モトローラ社が手を組んでPowerPCの開発*1を発表したとき、インテルにとっては大きな危機だった。烏合の衆の連合ではなく、いずれも強力な会社の連合でしたからね。
でも、そのあと、彼らは自滅していった。IBMは大して数も出ないワークステーションにPowerPCを使うと言うし、モトローラはまったく別世界の家電などでの組み込み用で使う、そしてアップルは互換機戦略と聞いた時にはガッカリしました。
もし、PowerPC連合が「Wintelはもう、すぐに古くなる。3年後、ライフスタイルに革命をもたらすパソコンのパラダイムシフトをPowerPCで起こす」と勝者の戦略を取っていたら、インテルも危なかったかもしれない。
ところがアップルはマーケットシェアのほうに目が行って、Wintelの互換機を作ってパソコンシェアのつまみ食いをする、敗者の戦略を取ったんです。あの3社連合で新しいコンピューターへのビジョンを共有し、提案してきたらインテルも打ち負かされていたかもしれない。
だけど、古川さんが言うように、時代が変わった今、インテルのCPUを使うから、有象無象のパソコンメーカーによる互換機戦略ではMacファンは泣くでしょうね。それは認めますよ。
――プラットフォームといえば、今、ちょうどインテルは“Intel 3.0”*2をうたって、半導体メーカーからプラットフォームメーカーへの転身を図っていますよね。そのタイミングでのアップルとの提携というのは、単なる偶然でしょうか? それとも何か考えがあってのことなのでしょうか。
【古川】 何か考えがあるんでしょう。今年の“International CES”(米国ラスベガスで1月に行なわれた家電展示会)でインテルが“Viiv”(ヴィーブ)*3というプラットフォームを発表して、将来の放送と通信のあり方を見せたときには両頬を引っぱたかれたような気分でしたよ。
「もう、これはマイクロソフトの出る幕はないな」と。コンテンツ流通で、パソコン側のIDをどうやってコンテンツホルダーに流すかとか、そういったことまで含めて非常に細かく仕様が練られている。
このViivは、決してWindowsだけに限られるものじゃないと思うし、将来、プラズマテレビにつないだMacとかでも楽しめるようになって、例えばハイエンドのMacでは、ハイビジョンのレベルを超えた“4Kシネマ”*4クラスの出力もできるようになるとか、そういう展望も見えてくると思います。
【西岡】 インテルは、半導体大手なのに、半導体製造の話よりもコンピューティングとはどうあるべきかを考え続けている会社です。
幹部会などでは、半導体技術の議論はほとんどせずに、いつも「ユビキタス時代のパソコンはどうあるべきか?」、「携帯電話はどう進化するのか?」または「パソコンというのは、どうやってエンドユーザーに喜びを与えるのか?」などの議論が繰り返されている。BluetoothやWi-Fiの普及に積極的なのも、そのような議論があるからなんですよ。
インテルMacの登場前には、Macに“Intel Inside”のシールが張られるのでは、と心配した人たちもいるようですが、私はそんなことにはならないと思っていました。
インテルの幹部は皆、Macユーザーがどういう人たちで、Macのどんな点に喜びを感じるかを真剣に話し合ってよく知っている。ユーザーをがっかりさせるようなまねはしないだろう、と確信していたんです。(次回に続く)
*1 PowerPCの開発
初期のMacはモトローラのMC680x0というCPUを採用。CISCという構造の同CPUは構成が複雑になり、高速化に陰りが見え始めていた。そこでアップルは将来OSのためのCPU、パワーPCをIBMと共同開発することを決め、のちにモトローラもこれに加わった。
*2 Intel 3.0
第1期のインテルはメモリーメーカー、第2期はCPUメーカーとしたうえで、これからのインテルはパソコンや組み込み機器などさまざまなプラットフォームを提案する企業になるという意味から“Intel 3.0”を標榜している。
*3 Viiv(ヴィーブ)
インテルが提唱するデジタルコンテンツ エンタテインメントのためのプラットフォーム。Intel Core Duoと『Windows XP Media Center Edition』を搭載した、パソコン型およびテレビに接続するプレーヤー型製品を提案中。
*4 4Kシネマ
ハイビジョンの4倍、800万画素相当(4000×2000ドット)の解像度を持つ超高精細映像。NTTサイバースペース研究所やソニーが技術デモを行っている。まだ完全な標準化は行われていないが、デジタル・シネマ規格に準拠。
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(林 信行、編集部)
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