【特別対談】二大企業の重鎮が語る、アップルへの提言――第3回「望まれるパソコン業界のパラダイムシフト」
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MacPeople 2006年4月号 2006年04月12日
第1回、第2回に続き、最終回となる今回では、Intel Macの展望やコンピューター業界全体の未来について熱く語られた。米アップルコンピュータ社、そしてパソコン業界がよりよい方向に向かうために、巨頭2社の元トップが提言する秘策に注目だ。
*この対談はMac miniとBoot Campの発表前、2月上旬に収録されたものです。
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左・インテル(株)元会長・西岡郁夫氏、右・マイクロソフト(株)元会長・古川 享氏 撮影:(有)パシャ 篠原孝志 協力:九段会館 |
紆余曲折を経てアップルと成就
――米インテル社とMacはもともと、関わりが深かったんですよね?
【西岡】 ええ、インテルはMacを片思いし続けていた会社で、ずっとラブコールを送り続けていましたね。
1993年に米国で開催された“COMDEX”(コムデックス)というコンピューターの展示会で、アップルはインテルCPUで動くMac OS(コード名“StarTrek”)を招待客だけに見せてくれました。「やっとMacが世界標準になる」と喜んだんですが、当時のアップルCEOのジョン・スカリーはこの開発計画を中止したんですよ。あれは本当に残念だった。
その頃のWindowsはネットワーク対応が弱かったし、あのOSがそのまま完成して世に出ていたら、ビル・ゲイツは今の地位にいなかったのでは、とも思います。1995年に『Windows 95』が出たときも「なんだ、こんなのもうとっくにMacでできていたよ」というのが率直な感想でしたから。
――私はその5年後くらいにスカリーをインタビューしました。「アップルは儲けの大半をハードの売り上げから得ていたものの、MS-DOSやWindowsに対抗するには倍近い値段をOSに付けて、さらに社員も大幅に削減しないといけなかった」と振り返っています。
【西岡】 そう、アップルは徹底的にハード依存の会社だったんですよね。
【古川】 ただ、私はそこはやり方次第だと思いますよ。アップル日本法人の社長就任の話を持ちかけられた際、クパチーノの本社に「OSのライセンスだけで料金を徴収せずに、互換機メーカーからハードウェアのライセンス料も徴収するようにすれば、自分たちで製造するよりも儲かるのでは」と提案したんです。でも、露骨に「日本法人の仕事はMacを売るだけだ」と言われてね(笑)。
もし、互換機戦略を展開するなら、ソニー(株)とかの日本企業との橋渡しもできると言ったのだけど、「われわれが探しているのはMacを売ってくれる人物で、それ以外のことは期待していない」と言われて、そこで話が終わってしまった。あとから聞いたら、ソニーの出井さん(出井伸之元会長)もMacの互換機を作りたいとアップルに声をかけていたけど、実現しなかったらしいですね。
【西岡】 インテルもそうやってラブコールを送り続けては無視されてきたんですよ。
――でも、それが長い紆余曲折の末、今回、ようやく実ったんですね。
【古川】 新しいインテルMacのテレビCM、あれを見て驚いたんですけど、普通、CPUの製造ラインは横に流れているはずなのに、CM内のシーンではまるでCPUが別世界へ昇天していくかのようにスーッと上がっていくじゃないですか。それで、iMacの中に入る。
スティーブ・ジョブズもあのCMがよほど気に入ったのか、たった90分の基調講演で2回も流していたけど、今回の提携における、アップルの期待の大きさみたいなものを感じますよね。
(林 信行、編集部)
新世代アプリケーションへの期待
――MacとIntel Core Duoの相性について、どのように感じていますか?
【古川】 これまでMacは、たまたまCPUのアーキテクチャーが違うために損をしてきたことが多いと思う。僕はiPodに800本近い映像を入れているのだけれど、この作業をするのには、皮肉なことにMacよりWindowsのほうがやりやすかったんです。
Macではどうしてもできないことがあって、途中で諦めてしまった。というのもWindowsには、映像変換からRSSによるiTunesへの自動配信まで済ませられるソリューションがあるのに、Macには相当するものがなかった。
こうしたMac非対応で悔しい思いをすることは今でも少なくない。最近、話題のインターネット上のテレビ放送局“GyaO”は視聴者が670万人いて、来月にもBSデジタル放送の視聴者数を超えると言われています。
でも、これもWindowsでしか見られない。けしからんと思うけど、米マイクロソフト社も『Windows Media Player』のMac版の開発を中止してしまった。
ただ、これからはCPUがインテルになったことで、悔しい思いも少しずつ減ってくるかもしれません。仕事で必須の業務用アプリケーションの中にはMac OS Xへの移行をきっかけに、Macへの対応をやめてしまった製品もあるけど、その中には、今回のインテルプラットフォームへの移行を機会に戻ってきてくれるものもあるかもしれない。
その一方で、新しいライフスタイルやワークスタイルの道をきり開く『Aperture』や『Final Cut Pro』といったアップルの革新的な新世代のアプリケーションが、インテルCPU移行で、より高いパフォーマンスを発揮し、新しい機能を身につける――今後、そんな効果が出てくることを期待しています。
ちょっと面白いのが、アップルがインテルに移行するのとちょうど逆行するように、マイクロソフトの『Xbox 360』はPowerPCに移行しているんですよね。これでゲーム機は、全部PowerPC系CPUになってしまったけれど、中でもXbox 360はPower Mac G5上でWindowsの特別版を動かしたものが開発環境になっている。両者の方向性が、完全にここでクロスオーバーしているんですよ。
(林 信行、編集部)
コンピューターテクノロジーの進化
――最後になりますが、パソコン業界を常に支え、見守ってきたおふたりから見て、今日までのパソコンの進化というのは期待通りのものでしたか?
【西岡】 インテルはこれまで少々、力ずくでCPUのスピードだけを上げてきたところがあります。とはいえ、並列の積分方程式を解く必要があるユーザーはごくごく例外で、普通のユーザーが本当に必要なのは、もっとIO*1の性能を上げたりとか、時間のかかる処理の待ち時間の間に面白いソフトで楽しんでいるといった方面なんです。
なのに、これまでのインテルは自分たちの力が及ぶ範囲、かつx86アーキテクチャーに悪い影響を及ぼさない範囲の改良ということで、やみくもに駆動周波数を上げて演算スピードだけを向上させてきた。そうではなく、ユーザーが本来欲している部分の開発に注力していたら、パソコンの進化がもっと速くなっていたと思うことがあります。
【古川】 私はハードのほうには目覚ましい進化があったと思いますよ。昔はそれこそ5MBのメモリーが65万円もしたし、HDDの容量も10MB程度だった。ただ、容量が爆発的に増えたのにHDDは何GBのものを買っても1GBしか空き容量が残らない。メモリーもいつもいっぱいまで使われている。
確かにCPU性能が向上し、さまざまな容量が上がったことで、それが人とパソコンのリッチなインタラクション(対話)に生かされているのも確かだけれど、本当にそれだけの容量が必要なのか。どうも、われわれは資源をあるだけ使い尽くすようなかたちで、パソコンを進化させてしまったんじゃないか、という懸念があります。
もうひとつ思うのは、私が22歳のときに月刊アスキーのコラムでも書いたんですが、「ハードやソフトは見えなくなるのが理想」だということ。オーディオが趣味の人の中にはケーブルや針といった道具にこだわって、その話ばかりをしている人がいるけれど、本当に大事なのはそれを使って聴く音楽のはず。
同様にパソコン、それを使って可能になる新しいコミュニケーションとか、テレビに代わる新しいメディア形態とかこそが重要なはずなのに、相変わらず世の中は「新しいハードが出ました」とか「新しいソフトが出ました」とか、そんな話ばかりをしている。
【西岡】 昔、PowerPC陣営が発足したときに私が期待していたのは、まさにそういうところ、そういった新しいパラダイムの登場だったんです。インテルは、それまでのソフト資産とかを守らなければならないといった縛りもあったけど、まっさらな状態から始められるPowerPCならそれができたはずなんです。
【古川】 そのような進化は、組み込みの分野で起きているのかもしれませんね。今、レクサスの車だけで80本のCPUが組み込まれていたり、携帯電話からデジタルカメラなどあらゆる分野で米フリースケール社のCPUやインテル社のXscale*2が覇権を争っている。でも、これらの製品を扱う際にCPUの種類やアーキテクチャーを気にする人はほとんどいないでしょう。
――そういう意味では、今回の提携は、iPodへのXscale採用とか、そういった方面への展開も期待できるのかもしれませんね。
【古川、西岡】 そうかもしれませんね。(おわり)
*1 IO(アイオー)
入出力。メモリーやディスク、CPUとの間で情報のやり取りに使われる導線やそこを流れる信号を指す。CPUが高速でもIOが遅ければ、処理するのに必要なデータが読み込めなかったり、結果を書き出せずに処理が止まる。
*2 Xscale
インテルの組み込み用プロセッサー。裁判を経て米デジタル・イクイップメント社から獲得した組み込み用プロセッサー、“StrongARM”をベースに開発。PDAや携帯電話用プロセッサーとして提供しているが、組み込み市場ではPowerPC陣営にやや押され気味。
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(林 信行、編集部)
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